放射線治療は手術や抗がん剤療法と共にがん治療の3本柱として欠かせない治療法ですが、米国がん患者の3人に2人が放射線治療を受けるのに対し日本では3人に1人に留まっています。このように本来なら放射線治療の適応のある方がその機会に恵まれないのが現実です。
放射線治療の対象となる患者さんはあらゆる分野におられます。
それらには
・前立腺や早期肺がんなどの高精度放射線治療(IMRTや定位照射)単独治療
・肺がん・食道がん・耳鼻科系のがんや子宮頸がんなど抗がん剤を併用した化学放射線治療。
・乳がんなどの手術後の再発予防のための術後照射
・骨転移や脳転移などの緩和治療
があります。
放射線治療の適応の低い疾患もありますが、このように多くのがんのあらゆる状況で放射線治療が必要となります。当クリニックでは苑田会の「常に患者様を受け入れます」の基本方針に沿って放射線治療を必要とされるすべての方に、クリニックならではの親密できめ細やかな診療をベースに、最良・最適・最新の治療を提供いたします。
治療を受けていた病院で「もう有効な治療法は無いから好きにしてよい」と言われるいわゆる“がん難民”が問題となっています。都心の病院で治療適応が無くなったとして地域の医療施設に送られる患者は多数あり、このような方の中には放射線治療により延命されたり、疼痛などが緩和され生活の質(QOL)を保てる方がいらっしゃいます。
前立腺癌 | 乳癌 | 頭頸部癌 | 肺癌 | 食道癌 |
子宮頸癌 | 高齢者の癌 | 骨転移 | 脳転移 |
前立腺癌とは
前立腺癌は高齢者に多い癌で年々増加しています。かつては骨転移が初発症状ということが多かったのですが、現在ではPSA検査(血液検査)が普及したため、転移する前に発見される人がほとんどです。排尿の回数が多い(頻尿)や尿の出が悪い(排尿障害)などが主な症状です。しかし、年令とともに前立腺が肥大するため同様の症状がみられます。したがって、症状から病気を発見することは困難です。
治療法の選択
治療法の決定には
l 癌の進行度(癌の進行度を分類したもので、病期分類といわれています)
l PSA値(血液検査でわかる癌の進行度ですが、前立腺肥大や前立腺炎でも上昇します)
l グリソン・スコア(生検した癌の組織を顕微鏡で見て癌の悪性度を分類したもので、2から10のスコアを付けます)
が重要で、この3つの因子から総合的に判定し、低リスク・中リスク・高リスクに分類します。もちろん年令や体の状態(全身状態)や既往歴なども考慮します。
治療法
癌が前立腺に留まっているとき(癌の進行度分類でIからIII期)には、放射線治療や手術療法が選択されますが、両治療の成績に差はありません。
70歳以上で悪性度が低い場合は、PSA監視療法(治療を行わないでPSA値で経過を観察)を選択することもあります。
リンパ節や骨に転移があるときには、ホルモン療法が選択されます。
放射線治療の長所と短所
長所:
治療の効果は手術との同等性が示されていますが、手術と比較した放射線治療の長所は治療後の生活の質(QOL ; Quality of Life)を高く保てる点です。手術では高率に勃起不全などの性機能障害や尿漏れが認められますが、放射線治療では頻度が低く症状も軽微です。また体への負担が少ないため、高齢者でも可能で通院治療が原則です。
短所:
週5回の照射をおよそ2か月間(7週間から8週間)行うことです。
1回ごとの照射時間は数分と短いのですが、飲水などの前処置があるため、これを含めると毎回の治療時間は1時間以上かかります。また、便通が一定していないと前立腺の位置が便に押されたりして移動するため排便やガスの管理も必要です。
放射線治療の方法
放射線治療には
l 高精度外部照射法
l 密封小線源永久挿入療法
という2種類の方法があります。
癌は前立腺内に広く分布していることが多く、前立腺全体を均等に照射することが重要です。
当院の高精度外部照射法 (IMRT)
前立腺の周囲には直腸と膀胱が接しており、これらに当たる線量をできるだけ少なくして、前立腺全体に十分な量を当てることが求められます。このため当院では画像誘導放射線治療(IGRT)
を駆使した、強度変調放射線治療(IMRT)治療を行っています。IMRTはコンピュータを駆使した照射方法で、この要求を満たすことができます。数ミリ離れた部位の線量を低くすることが可能です。
しかしながら、そのように複雑な形で照射が可能でも、実際に照射する時に、中心がずれたまま照射されると前立腺に十分な線量を照射できません。これでは再発の原因となったり、副作用の原因となります。
当院の高精度外部照射法 (IGRT)
当院では強度変調放射線治療(IMRT)治療時の位置合わせのために、画像誘導放射線治療(IGRT) を行っています。IGRTは位置のずれを画像を用いて正確に確認、修正します。
当院のIGRTは治療装置(リニアック)に搭載された、位置合わせ専用のCT装置にて行います。
毎回の治療直前に照射用の寝台上でCTを撮影し、放射線治療計画時のCT画像と照合し、立体(3次元)的なずれ検出します。そしてそのずれはロボット寝台(6軸寝台)により、コンピュータ制御下に自動的に正確かつ確実に修正されます。
前立腺癌の照射範囲
齋藤勉、関口建次 他 著
ベストエビデンス放射線治療(金原出版株式会社)より抜粋
副作用
放射線治療期間中には、尿の回数が多くなることがしばしば見られます。尿が出にくくなったり、排尿時痛がでることもあります。また痔が起こることもあります。しかし、これらの症状は通常は放射線治療が終了して数週間すれば元に戻ります。
放射線治療後半年~2年頃に、排便の際に便に血がつくといった、痔の出血に似た症状が出現することがあります。これは直腸からの出血で、10%から30%の方に見られます。
これは放射線治療に特異的な副作用です。多くの場合は適切な治療を行うことで治癒します。また、治癒が遷延して直腸から出血が時々あっても、普段の生活に大きな影響を与えることはありませんし、治療法も確立しています。
性機能障害や尿失禁も頻度は低いのですが、起こることもあります。
密封小線源永久挿入療法
(シード療法)
生検のときと同じような方法で、放射性ヨウ素を密封した小さな粒(シード)を数10個ほど前立腺内に会陰部から挿入し、そこから出る放射線(ガンマ線)で照射を行う方法です。リスクの低い前立腺癌に対し適応があります。
専用の治療室で全身麻酔下に行いますので、入院しての治療となるため当院では行っていません。
当院の医師は2名とも以前の勤務先で十分なシードの経験がありますので、IMRTとの違いや両者のメリットに関してお話しすることや施設紹介をすることができます。
乳癌とは
発症は20歳台から80歳台まで広く分布しており、年々増加しています。乳がん検診が普及し早期に発見されることが多くなりましたが、しこりを自覚して受診される方も多いのが実情です。
基礎から臨床までの研究が最も進んでいる癌のひとつで、いろいろな事がわかっています。しかし治療法の開発が精力的に行われており、数年で標準治療法が変化することもあります。
予後を大きく左右する様々な因子がわかっていて、これによって治療法も違ってきます。主な因子にリンパ節転移の個数、乳癌の大きさ、ホルモン受容体、サブタイプなどがあります。
治療の適応
大きく早期乳癌、進行乳癌、手術不能に進行した癌に分けられます。
乳管内癌を含む早期乳癌は患者さんが多く、乳房温存療法のよい適応となります。治療法(標準治療)は乳房部分切除+術後照射(+ホルモン療法)で、抗がん剤や分子標的薬が追加されることもあります。
進行乳癌の場合は乳房切除手術した後のリンパ節転移の個数により、術後に鎖骨上(首のつけね)と胸壁に照射を行う場合があります。手術前に抗がん剤や分子標的薬を行うこともあります。
手術不能に進行した癌では抗がん剤、分子標的薬やホルモン療法が主体となりますが、必要に応じて放射線治療が用いられます。
放射線治療の方法(乳房温存療法)
乳房部分切除術の1~2か月後に放射線治療を行います。
現在の標準放射線治療は、切除された側の乳房全体に50グレイの照射を、5週間(25回)かけて照射します。また一定の条件を満たせば、3週間の短期照射も可能です。
この際に体内の肺や心臓に、できるだけ放射線がかからないように、接線照射法と呼ばれる斜め前方向からと斜め後ろ方向から乳房を照射します。
乳房接線照射の範囲と方法
齋藤勉、関口建次 他 著
ベストエビデンス放射線治療(金原出版株式会社)より抜粋
照射の回数と線量(乳房温存療法)
通常は2グレイずつ、週5回、5週間で合計50グレイの照射となります。しかし一定の条件(50才以上、抗がん剤なし、5cm以下の腫瘍でリンパ節転移なし)を満たせば、1回毎の線量を増やし、回数を16回に減らす短期照射も可能です。
なお、保険会社によっては、50グレイ以上の線量でないと、がん保険がおりないこともありますので前もって確認してください。
十分に切除したはずなのに、結果的に腫瘤ギリギリであったり、切除面(断端)に癌細胞が少し残っている場合、さらに若年者の場合には追加照射を5~8回行います。この際は癌のあった部分のみの照射となります
当院での放射線治療の特長
当院では乳癌患者手術を年間900例以上と200例以上を取り扱う施設の属していた、30年以上の臨床経験がある2名の放射線治療専門医が診療に当たります。ひとりは日本乳癌学会制作の乳癌診療ガイドラインの作成委員を務めております。
乳癌の治療は長期に及ぶため、仕事を再開しながら放射線治療を受ける患者さんもいらっしゃいます。夕方の照射を希望される方はぜひご相談ください。
副作用(放射線治療時)
乳房温存療法は乳房を温存し、その整容性を保つために行われる治療です。したがって手術後の再発予防のためとは言え、照射により大きな副作用を残すようでは、この治療自体が成り立ちません。
放射線の副作用は軽微なものがほとんどですが、照射期間中に皮膚が赤くなったり、ひりひりするといった皮膚炎が多くの患者さんでみられます。これは治療期間が終了すれば、まもなくして回復します。
照射中はだるさや皮膚が赤くなったり、かゆくなったりしますが、これらも照射が終われば必ず良くなります。
副作用(放射線治療後)
数年間は汗が出にくくなりこともありますが、日常生活に支障はありません。
まれに治療が終了して数ヶ月後に、放射線肺炎と呼ばれる副作用が起こることがあります。空咳が出ることが特徴的ですが、胸部レントゲンやCTで診断ができます。通常数週間で症状がおさまります。
頭頸部癌とは
頭頸部(耳鼻科領域)の癌には、上・中・下咽頭癌、喉頭癌、舌癌など種類が多く、それぞれ異なった性格で治療法も異なります。
しかし共通点として食べたり、飲んだり、話したりする働きをつかさどってています。また外から見える部位でもあるので、美容上や社会生活上の観点からも、治療に際しては考慮が必要です。
したがって頭頸部癌は形態と機能温存のため、放射線治療が優先的に行われることが多い部位です。
放射線治療(化学放射線療法)
治療は喉頭(声門)癌や口腔癌の一部の除き、抗がん剤を併用した放射線治療(化学放射線療法)や手術です。このため多くの場合、入院治療となります。
またこの部位の放射線治療は、粘膜炎や皮膚炎などの副作用が強い治療となります。このため食物摂取や疼痛管理が必要となり、この面からも入院治療が必要です。
下咽頭癌の照射範囲
齋藤勉、関口建次 他 著
ベストエビデンス放射線治療(金原出版株式会社)より抜粋
頭頸部癌の治療施設
入院治療が必要となるため多くの頭頸部癌の治療は、通院治療を主とする当院の治療能力を超えます。このため、化学放射線療法の場合は大きな病院での治療をお勧めします。
しかし耳鼻科の診療には、癌以外にも様々な疾患がありますので、大学病院などの大きな病院といっても、必ずしも最新の癌治療を行っているとは限りません。
耳鼻科での癌治療専門の医師は、内科や外科と比べ不足がちです。がんセンターや癌をよく扱っている大学病院など、豊富な経験がある施設での治療をお勧めします。
肺癌とは
肺癌は高齢者に多く、喫煙との関係が深い疾患です。米国では以前より禁煙活動が行われており、肺癌の発生は低下傾向ですが、わが国では増加の一途をたどっています。
肺癌は最も予後の悪い癌の一つで、切除できない状態で受診される方が多く、この場合では半数の方が、一年あまりで亡くなってしまいます。比較的健康な人を対象とする臨床試験でも、半数以上の方が2年以内に亡くなっています。
肺癌の治療
肺癌は小細胞肺癌と非小細胞肺癌に分類されます。
小細胞肺癌は抗がん剤を中心とする治療が行われます。非小細胞肺癌では早期の場合は手術で、手術できない場合は放射線治療と化学療法を行います。
肺癌は高齢者でたばことの関係が深いため、肺気腫や慢性閉塞性肺疾患(COPD) といった呼吸器疾患を伴っている場合が多くみられます。これらの患者では、癌自体は切除可能でも、呼吸機能が低下しているために切除できない方もいます。
放射線治療(非小細胞肺癌) 切除可能な症例
これまでは切除可能な症例に放射線治療を行っても、切除不能の癌の治療成績とあまり差がない状況でした。
しかしピンポイントに3次元方向から放射線を腫瘍に集中してあてる体幹部定位放射線治療(SBRT)が、日本における研究を中心に開発されました。
SBRTにより大量の放射線をがんに集中的に照射するため、周囲の臓器は少ない線量で済むようになりました。このため切除可能な早期の肺癌では、外科的手術と比較しても同等といえる良好な生存率となっています。また癌以外の原因で手術ができない早期肺癌でも、良好な結果が得られています。
切除可能肺癌の照射範囲
齋藤勉、関口建次 他 著
ベストエビデンス放射線治療(金原出版株式会社)より抜粋
当院の切除可能な症例への放射線治療
当院ではIGRT (画像誘導放射線治療)の技術により、放射線をあてる位置の精度を高めて、SBRT(体幹部定位放射線治療)を行います。
正常な臓器などにあたる放射線は、最小限に抑えるピンポイント照射であるため、治療効果が高く、大きな副作用はありません。
照射後に放射線肺炎が出現することがありますが、空咳程度で呼吸苦などの症状が出ることは稀です。
当院の体幹部定位放射線治療の実際
放射線をあてるのは原則4回(48グレイ)で、期間は1週間程度です。しかし症例によって癌のある部位が異なりますので、周囲の正常組織の安全を見込んで、1回の線量を減らして照射回数を増やすこともあります。
治療中に痛みなどの苦痛はなく、1回の治療時間は30~40分ほどで、通院での治療が可能です。
体幹部定位照射
3次元方向からピンポイントで照射する
齋藤勉、齋藤秀敏 著
臨床からたどる放射線物理(金原出版株式会社)より抜粋
放射線治療(非小細胞肺癌)切除不能の肺癌
放射線と抗がん剤の治療が主体で、すでに転移が存在する場合は抗がん剤が主体の治療となります。
食道炎や白血球減少などの副作用が高度となりますので入院での治療となります。したがって通院治療を主とする当院の治療能力を超えるため、大きな病院での治療をお勧めします。
切除不能肺癌の照射範囲
齋藤勉、関口建次 他 著
ベストエビデンス放射線治療(金原出版株式会社)より抜粋
放射線治療(非小細胞肺癌) 高齢者の肺癌
切除可能な状態の肺癌でしたら、通院での体幹部定位照射治療(SBRT)が可能です。
高齢者で切除不能の場合は、抗がん剤を併用すると生活の質(QOL) が大きく低下することになりますので、化学放射線療法は適応になりません。このような患者さんには、通院による放射線治療が可能な方も多くおられます。
胸椎や胸壁に癌が浸潤し疼痛を伴う場合、とくに上部胸壁に浸潤し神経を刺激して強い痛みを伴うとき(パンコースト腫瘍)は放射線治療は疼痛緩和に有効です。また呼吸苦や血痰を軽減することもあります。これらの場合、通院期間は4週から6週です。
食道癌とは
食道癌は飲酒や喫煙との関連性が高く、とくに飲むと顔が赤くなる人が要注意です。このためお酒に強くない東アジアで多発し、組織型が扁平上皮癌という種類の癌がほとんどです。
欧米では頻度が低く、腺癌が半数以上を占めるなど日本とは様相が異なります。
食道癌の治療
健診や胃カメラ検査中に偶然発見される早期癌(上皮内癌)は内視鏡手術の適応となります。
症状のあるものでは手術あるいは化学放射線療法後の手術、さらに抗がん剤治療後の手術など、本邦では様々な手術治療が行われています。しかし臨床試験からは、これらの治療と化学放射線療法の成績にあまり差はありません。高齢な方や体力がない方には化学放射線療法が勧められます。
手術ができない場合には、化学放射線療法が行われますが、実際には高齢者や食事が摂れず衰弱している方が多く、十分な治療ができず、症状を和らげるだけの放射線単独治療が行われることもあります。
放射線治療の方法(化学放射線療法)
化学放射線療法は放射線治療と抗がん剤を用いた治療です。
この治療は3週間の放射線治療のうち、最初の週に連日の抗がん剤治療を行い、1シリーズとします。これを2シリーズ行うのが一般的です。
このため抗がん剤を行う最初の1週間だけは入院治療となりますが、食事が摂れない時や肺炎を併発した時は連続した入院治療が必要となります。
食道癌の照射範囲
齋藤勉、関口建次 他 著
ベストエビデンス放射線治療(金原出版株式会社)より抜粋
食道癌の治療施設
一時的な入院治療が必要なため、通院治療を主とする当院だけでは治療が困難です。
このため、化学放射線療法の期間は、当院の関連施設や紹介いただいた病院で抗がん剤治療を受けながら、通院で放射線治療を行います。
子宮頸癌とは
子宮癌には頸癌と体癌があり、昔は頸癌が多かったのですが、体癌も増加しています。それぞれ異なった性格で発症しやすい年令も治療法も異なりますが、体癌の初回治療には放射線治療は行われません。
日本では子宮頸癌に対し手術が一般的に行われますが、欧米では放射線治療が主流です。このため日本の治療ガイドラインは欧米のものと若干異なります。
放射線治療(同時化学放射線療法)
外部照射と子宮および膣内から照射する腔内照射の両方を用い、さらに毎週1回の抗がん剤を併用します。このため入院が必要となります。
この部位の放射線治療は、下痢などの消化器の副作用が強くなりますので、入院しての管理を要することがあります。
子宮頸癌の照射範囲
齋藤勉、関口建次 他 著
ベストエビデンス放射線治療(金原出版株式会社)より抜粋
子宮頸癌の治療施設
入院治療となりますので病床を持たず、腔内照射の設備がない当院では治療が困難です。
抗がん剤を使った放射線療法の場合は、がんセンターや癌をよく扱っている大学病院など、豊富な経験がある施設での治療をお勧めします。
高齢者の癌の特徴
日本は世界に先駆けて高齢化社会が到来しています。発がん因子は多数ありますが、高齢になることが最大の発がん因子なのです。そして高齢になるほど病気は癌だけという方は稀で、多くの方が、高血圧・糖尿病・心臓病や脳梗塞などの持病を抱えています。しかし癌治療の臨床試験は、他に重大な疾患を持たない比較的若い癌患者を対象に行われます。したがって、臨床試験から得られた治療結果(エビデンス)は、高齢者の治療には不適切なこともあります。成人と同じ治療を受けてかえって寿命を縮めたり、寝たきりになって生活の質を落とすこともあります。このように標準治療の知識だけでは、最適・最良の治療を提供できません。また高齢者になるほど残された時間が短いわけですから、痛みから解放され、質の高い生活を維持することがとても重要となります。こういった治療が最適・最良の治療となることもあります。当院では30年以上の経験を持つ常勤の放射線治療専門医が2名、勤務しています。がん治療のエビデンスを踏まえつつ、個々の患者さんの状態に応じて、高精度放射線治療から緩和治療まで幅広く、質の高い、体に優しい放射線治療を提供しています。
骨転移とは
癌の発生した部位(原発巣)から癌細胞が主に血管を介して骨に移動(転移)し、そこで大きくなった状態です。痛みや骨折をきたすことがあります。原発腫瘍の性格を反映するため実際には様々な病態を示します。
頻度的には肺癌・乳癌・前立腺癌・肝癌からの転移が多いのですが、腎癌・甲状腺癌・多発性骨髄腫などは稀な疾患ですが、高率に骨転移をきたします。
癌は全身に広がっているので、抗がん剤やホルモン療法、さらに骨に作用するビスフォスフォネート剤などの薬物療法が必要となります。疼痛緩和療法も欠かせない治療です。
放射線治療の適応
X線画像の特徴から
l 溶骨性転移(骨が無くなり、折れ易くなる)
l 造骨性転移(骨が固くもろくなる)
に分類され、両方の性格を持つものを混合性転移といいます。
溶骨性転移には肺癌、乳癌や肝癌が多く、直ちに放射線治療の適応となります。
造骨性転移には前立腺癌や乳癌が多く、症状が無ければ放射線治療の適応は低くなります。
放射線治療の方法
骨に転移した状態では、残された時間が短い方もいれば、病気をもったまま、何年も過ごすことができる方など人それぞれです。
この様に緩和治療では様々な状況に対応する必要があります。このため標準治療法はなく、患者さんの必要に応じて、短期間に痛みを軽くする治療を行ったり、長い間その部位を制御することを目的に、照射をすることがあります。
照射の回数と線量
照射量は患者さんの状態に応じて8グレイ(1回)から40グレイ(20回)を行うことが多く、中でも30グレイ(10回)が最もよく行われています。
いずれの方法も痛みを軽くする効果に差はないのですが、線量が多くなるほど効果持続期間が長いといわれています。
この様に柔軟に照射法が選択できるため、状態の悪い人も含めほとんどの患者さんに照射が可能です。
副作用
治療する部位により異なり、頸部では飲み込むときのしみる感じ、下腹部では便が柔らかくなることがありますが、いずれも軽度です。
悪性硬膜外脊髄圧迫とは
背骨(脊椎)への転移はよく見られますが、ときに脊椎の中(脊柱管)を通る脊髄を圧迫することがあります。
圧迫が胸部に起こると下肢が動かなくなったり、排尿、排便の感覚がわからなくなったりすることがあります。
首のあたりの圧迫ではさらに手も動かなくなり、日常生活に大きな支障が出ます。麻痺が進行すると、治療を行っても症状が改善しなくなります。
悪性硬膜外脊髄圧迫の治療
麻痺が完全に進行しないうちに手術で圧迫がとれればいいのですが、実際にスタッフや手術室の状況が許さず、緊急手術が行われることは稀です。
このため放射線とステロイドなどの除圧剤による緊急治療が行われます。この場合もなるべく早く治療を開始することが肝要です。
麻痺が軽いうちに照射を行うことが、とても大切です。
悪性硬膜外脊髄圧迫の再治療
放射線治療終了後しばらくしてから、同じ骨転移部位が再増大することもあります。
この場合、同じ部位に2度目の放射線をあてることになるため、脊髄症などの重篤な副作用のリスクが高くなります。この様に治療が困難なため、椎体転移の再発に対して、照射を行わない施設もあります。
当院では可能な限り強度変調放射線治療(IMRT)により、脊髄や小腸など周囲臓器に当たる線量を、最小限に抑えながら再照射ができるかを検討します。
脳転移とは
癌の発生した部位(原発巣)から癌細胞が血管を介して脳に移動(転移)し、そこで大きくなったものを脳転移といいます。
脳の中で癌が大きくなるため脳圧が上がり、頭痛や吐き気がみられたり、脳内に転移した部位に特徴的な神経症状がみられるなど、様々な病態を示します。また転移巣が脳の表面に達すると髄液を介して脳表面や脊髄に広がります。
脳転移を起こしやすいのは肺癌・乳癌・胃癌・直腸癌です。腎癌・甲状腺癌・悪性黒色腫などは稀な疾患ですが、転移の頻度が高いため脳転移がよく見られます。
治療法の特徴
全身転移の一兆候ですので抗がん剤の適応ですが、脳血管には薬物を通さないバリア(脳血管関門)があるため、多くの抗がん剤は脳内に移行しません。このため抗がん剤の効果は限定的ですので、放射線治療や手術が行われます。
単発脳転移の放射線治療の方法
単発で比較的に大きな転移の場合は手術が行われますが、切除可能な部位は限られます。放射線はほぼ全域で照射が可能です。
脳への放射線治療専用機としてガンマナイフがよく知られていて、1回の超精密な照射を行うため、定位放射線手術といわれてます。
当院にあるリニアックでもピンポイント照射が可能で、特殊な固定具を用いて高精度に照射をします。数回に分けて照射することが多いため、定位放射線治療と呼ばれています。
多発脳転移の放射線治療の方法
4個以内の転移の場合は、定位放射線照射のみで行うこともありますし、それに脳全体を照射する全脳照射を併用することもあります。
5個以上の場合は、原則全脳照射となります。照射量は30グレイ(10回)あるいは37.5グレイ(15回)が一般的ですが、定位放射線照射を併用することもあります。
全脳照射の照射範囲
齋藤勉、関口建次 他 著
ベストエビデンス放射線治療(金原出版株式会社)より抜粋
副作用 (放射線治療時)
脳は頭蓋骨で囲まれているため、照射により脳がむくむと、脳圧が亢進します。このため、治療期間中は頭痛や吐き気が起こりやすくなります。
もともと転移巣により脳がむくんでいますので、原則入院で脳圧を下げる薬を併用して治療を行います。
全脳照射の場合、一時的に髪の毛が抜けてしまいますが、数か月ではえ出します。
副作用 (放射線治療後)
脳転移をきたす患者さんは高齢者が多く、それまでに大量の抗がん剤を使用していますので、全脳照射を行うと、照射半年から数年後に認知症の増悪がみられることがあります。
定位放射線照射の場合は数年後に高線量の部位に脳壊死が起こることがあります。
当院での放射線治療の特長
脳転移をきたした高齢者の患者さんでは全脳照射を行うと、照射半年から数年後に認知症の増悪がみられることがあります。当院ではこれを避けるため可能な症例には、強度変調放射線治療(IMRT)により、認知症に関係の深い側頭葉の海馬周辺の線量を低減して照射しています。
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