どんな癌でもすべて切除してしまえば、体から癌が無くなります。しかし再建手術ができなければ大幅に生活の質 (QOL) が低下したり、場合によっては生命を維持することもできません。外科治療の分野ではこの様な状態の癌は切除の可能性(operability)
が無いといいます。
同じようにどんなに放射線が効きにくい癌でも大量に放射線を照射すれば必ず消失します。しかしこれでは体が持ちません。これを放射線治療の分野では治療可能比(TR;
therapeutic ratio)が1以下あるいは低いといいます。
治療可能比とは正常組織の耐容線量と腫瘍制御線量の比のことです。正常組織の耐えられる線量が腫瘍を制御できる線量より大きければ(1より大)、腫瘍を制御する線量を照射しても正常組織は耐えられるので、根治的あるいは制御可能な治療となります。
耐用という言葉が一般的で耐容という言葉はなじみがないと思います。広辞苑では「耐用」とは使用に耐えることを意味しますが、「耐容」の項はありません。放射線治療によってなにも副作用(有害事象)が起きないことはあまりありません。しかし癌を治すためには一過性の皮膚の発赤などの副作用やほとんど症状が無いような副作用は容認されます。これは手術により正常組織も含めて切除することが、癌を治癒するために容認される行為であるのと同じことです。このため副作用に耐えられ生活の質 (QOL) の低下が容認できる範囲の線量という意味で耐容線量という言葉を用いています。
このように放射線治療では癌の消失だけでなく、必ず正常組織の耐容性もセットにして治療の可能性を追求します。
治療可能比を向上させるにはどんな方法があるのでしょうか。
一番簡単な方法は正常組織に照射される線量を腫瘍に照射する線量より低くしてしまうことです。癌の周囲にある正常組織のごく一部が耐容線量を超えたとしても症状は出ませんので、正常組織の大部分が耐容線量以下で腫瘍が制御線量以上となれば局所制御が望めます。これを実現したのが高精度放射線治療で年々進歩しています。
もう一つの方法は放射線の照射法を工夫することです。総量が同じ量の放射線を受けても照射方法により効果が大きくなったり小さくなったりします。しかもその効果は正常組織と癌で大きく異なることが分かっています。癌には効果があり正常組織では影響を受けにくい照射法が研究されていますが、この中で特に重要なのが照射毎の線量(1回線量)と治療開始から完了までの期間(照射期間)です。
一般的な照射法は1回に2Gy(グレイ;放射線量の単位)で1週間に5回照射し、これを5週間から8週間続ける方法です。この方法は長年の治療経験の蓄積から導き出された方法ですが、有効性が高くで社会生活にも合うものであり、臨床研究からも最良の方法という結果が示されています。
つまり週5回法が正常組織に優しく、腫瘍への効果を落とさないで無理なくできる方法です。ほとんどの治療施設でこの方法が採用されていますが、病気によっては1回のみで終了する方法や1日に2回照射をおこなう方法もあります。
照射期間が延長すると治りにくくなる癌があることが、基礎研究や臨床研究から示されています。治療期間中に腫瘤(癌のかたまり)は小さくなってゆきますが、まだ死滅していない一つ一つの癌細胞は治療開始前の癌細胞より速い速度で成長しています。このため照射期間が大幅に延長すると治療成績が低下することがあります。
毎日飲まないといけない抗生剤を3日おきに飲んだのではばい菌に対して効果がないのと同じです。すべての癌で見られる現象ではありませんが、治療が適切な期間で終了する様に心掛けています。
抗がん剤(化学療法)との併用も多種類の癌で行われています。現在のところ癌の制御率を向上させることを主眼として、既存の抗がん剤との併用が行われる場合がほとんどです。これからは分子標的薬などの抗がん剤の開発研究が加速度的に進んでいますので、さまざまな化学放射線治療の開発が期待されます。
抗がん剤による腫瘍縮小効果により放射線の照射量を増加させないで、より以上の効果が得られ副作用の少ない効果的な治療法が期待されています。しかし思いがけない副作用が出現したことも報告されておますので、最新の知識と慎重な併用を心がける必要があります。
一般に根治的治療が可能な癌は早期のもので、局所治療が有効的で、その治療法には手術と放射線治療があります。根治的治療として抗がん剤を用いるのは白血病や悪性リンパ腫などだけで、一般的に根治的治療時の抗がん剤使用は補助療法(adjuvant therapy)となります。
癌の局所治療を行う場合、目に見える癌だけを対象にしたのでは必ず再発します。このため治療対象は腫瘍(原発巣)とその周辺を含めた領域および近くのリンパ節(所属リンパ節)を対象とする広い範囲に及びます。この範囲ギリギリやこれを超えて広がる癌の場合は根治性(curability)が低いため姑息治療の対象となります。
肺や肝臓・腎臓の低機能などの余病を持っていたり高齢の方では根治的手術が行えない場合があります。また癌の発生した場所によっては手術により切除をすると、その後の生活の質(QOL) が大幅に低下することもあります。この点において放射線治療は根治性が少し低下することもありますが、照射範囲や照射法を調節することも可能なため、手術に比べて柔軟性の高い治療が可能なことが特長で、臓器や機能の温存も望めます。
高齢が発癌の最大の因子で、高齢化社会では癌の発生が増加します。余病を多く抱えた高齢者では手術が可能な方は限られますので、放射線の果たす役割は今後に増加します。また抗がん剤治療も高齢者には副作用が強く生活の質(QOL)を低下させ、治療の完遂が困難なことが多くあります。この点でも放射線の果たす役割は今後増加します。
癌が進行・再発し制御が困難な方も多くおられます。この中には「もうあなたの癌を治す治療はありません」と言われ治療施設を転々とする「がん難民」の方もおられ、社会的な問題にもなっています。残念ながら根治は望めませんが、疼痛緩和や苦痛の除去などの緩和治療により生活の質(QOL)を保つことは可能な場合が多くあります。限られた時間だからこそ有効に快適に過ごされることが重要と考えます。
この分野においても放射線治療の果たす役割は大きく、当クリニックでは放射線治療を必要とされるすべての方に、クリニックならではの親密できめ細やかな診療をベースに、最良・最適・最新の治療を提供するように心がけています。
癌にだけ放射線を照射し周囲の正常組織にはわずかの量しか照射しない「ピンポイント治療」は放射線腫瘍医の長年の夢でした。今から40年前まではX線透視装置で骨の位置などから照射範囲を決めるのが日常で、触診だけで決めることもありました。
そのころは切開しないで体内を見ること(画像診断)自体が困難でしたが、これを可能にしたのが20世紀最高の医療装置といわれるCTの開発でした。現在では体内のどの部位も立体的(3次元的)に観察が可能となり、体を開くことなしに体外から正確に病巣部位を特定できるようになりました。
またコンピュータ(治療計画装置)が進歩・普及して、複雑な多方向からの照射の線量を正確に計算できるようになりました。「ここに何グレイ、ここには何グレイ」と指示するとコンピュータが照射法を計算してくれる(逆方向治療計画、inverse planning)ことも可能になりました。
以上の進歩により高精度の放射線治療が可能な基盤が整いました。このため高精度放射線治療を行える装置の開発・普及が進み、当クリニックに設置されているような装置にいたりました。
高精度放射線治療は正常組織の線量を低減できるため、従来の放射線治療より副作用が少なく、より効果的な治療が可能です。こうなると計算した照射計画が本当に毎日の照射の中で実現しているのかを確認する質的保証(QA)・質的管理(QC)が重要となります。このため放射線治療専門医、医学物理士、放射線治療品質管理士、放射線治療専門技師などの職種が生まれました。
高精度放射線治療には強度変調放射線治療(IMRT)、定位放射線照射(SRI)があります。
IMRTは従来の照射法に取って代わる画期的なものです。1方向からの照射時に放射線の量を変化(強度変調)させ、ある部位は多く、別の部位は少なくした不均一な線量分布の照射をします。これを多方向から行い最終的には病巣には十分な線量を、リスク臓器には少ない線量となるような線量分布を得ることができます。
こうなると高精度の治療のため毎回の治療が必ず同じ部位に照射されていることが必要で、ずれていれば再発の原因ともなりかねません。多少広めには照射するのですが、これを確実にする補助技術としてIGRT(画像誘導放射線治療)があります。
最新の放射線治療装置(リニアック)には位置合わせ専用装置(OBI;On Board Imager)が搭載されています。この装置でレントゲンの2方向撮影をして照合したり、CT(CBCT)撮影をして見えにくい前立腺などの軟組織の位置合わせ(3D照合)をすることもできます。当クリニックではさらにロボット寝台を導入して、最初の計画時と毎回の照射時の立体(3次元)的なずれをコンピュータで制御して補正してから照射します。
定位照射は1 回照射の定位手術的照射(stereotactic radiosurgery:SRS)と複数回照射の定位放射線治療(stereotactic radiotherapy:SRT)に分類されます。SRSはおもに頭蓋内の病変に対して行われ、装置としてはガンマーナイフが知られています。SRT は体幹部の癌に用いられることが多く、この場合はSBRT(体幹部定位放射線治療)とよんでいます。
この治療はまさに「ピンポイント治療」で立体(3次元)的に体内の一点を照射します。頭部専用のガンマーナイフは200方向から細いビームで照射します。
SBRTは肺癌、肝癌などで保険適応があり、日本で行われた早期肺癌に対する臨床研究では手術に匹敵する良好な生存率を示すなど我が国は世界をリードする治療法の開発をしています。肺低機能や高齢の手術不能な症例でも有効性と安全性が示されています。
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